DISEASE
病名から探す肺高血圧症
症状
肺高血圧症は、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の圧力(血圧)が異常に上昇することにより、右心室に過度な負担がかかる病態です。初期段階では自覚症状がほとんど現れず、病態の進行とともに徐々に症状が顕在化していきます。
肺高血圧症の自覚症状
症状の多くは、体を動かした際に体が必要とする酸素供給が追いつかなくなるために生じます。初期の症状は非特異的であり、加齢や運動不足によるものと誤解されやすいため注意が必要です。
- 体を動かした時の息切れ(呼吸困難): 階段を登る、早足で歩くといった日常的な活動において息苦しさを感じるようになりますが、安静時には症状がないため見過ごされがちです。
- 疲労感・倦怠感: 体を動かした際に必要な酸素供給が追いつかなくなるために、すぐに疲れたり、体がだるく感じたりします。
- 失神(意識消失): 身体活動中に心臓が十分な血液を送り出せず、脳への血流が一時的に不足することで起こります。特に繰り返す失神は、病態が重篤であることを示唆する重要な危険信号です。
- むくみ(浮腫): 病気が進行し、右心室の機能が低下(右心不全)し始めると、全身の静脈から心臓に戻る血液の流れが滞り、足首や下肢にむくみが出たり、腹部の膨満感などが現れます。
この状態を放置すると、心臓への負担が蓄積し、最終的に重篤な右心不全に至るため、普通の身体活動で息切れや疲労を感じるようになった段階、すなわち身体活動に軽度の制限があるWHO機能分類II度の時点で、早期の専門的評価を受けることが極めて重要となります。
原因
肺高血圧症(PH)は、心臓カテーテル検査により平均肺動脈圧 (mPAP) が25 mmHg以上と確定された状態の総称です。この肺動脈圧の上昇は、根本的な病態メカニズムに基づいて、世界保健機関(WHO)により大きく5つのグループに分類されており、これらのグループによって原因や治療法が大きく異なります。
肺高血圧症(PH)の主な分類と原因
この分類は、治療方針がグループによって大きく異なるため、正確な鑑別診断において非常に重要です。
- グループ1:肺動脈性肺高血圧症 (PAH): 肺の細い血管そのものが異常に狭窄・閉塞することで発症します。原因が不明な特発性PAHや、全身性強皮症などの膠原病に伴うPAHなどが含まれ、「指定難病86」に認定されています。
- グループ2:左心疾患に伴うPH: 心不全や心臓弁膜症など、心臓の左側に問題があるために肺静脈圧が上昇し、結果的に肺動脈圧も上昇するものです。
- グループ3:肺疾患・低酸素血症に伴うPH: 慢性閉塞性肺疾患 (COPD) や 間質性肺炎 などの慢性呼吸器疾患に伴い、低酸素状態が続くことが原因で肺血管が収縮し、肺動脈圧が上昇するものです。
- グループ4:慢性血栓塞栓性PH (CTEPH): 過去に肺に詰まった血栓が完全に溶けずに残り、物理的に肺の血管を塞いでしまうことで圧力が上がるものです。
- グループ5:その他の原因によるPH: 血液疾患や代謝疾患など、上記以外で複雑な原因や病態を持つものです。
多くの場合、これらの基礎疾患や病態が複合的に絡み合い、右心室の負担を増加させることで発症します。どのグループに属するかによって治療方針は全く異なるため、正確な鑑別診断がその後の治療戦略の要となります。
診断
肺高血圧症の診断は、患者様の自覚症状の評価から始まり、非侵襲的な検査で可能性をスクリーニングし、最終的に侵襲的な検査で確定診断と重症度を評価する集学的なプロセスです。
診断に用いられる主な手法
肺高血圧症の診断と病態の評価は、主に以下の方法を組み合わせて行われます。
- 問診・身体診察: 息切れや疲労感が出現した時期、どのような動作で症状が出るかなど、症状を詳しくお伺いし、身体活動の制限度合い(WHO機能分類)を評価します。
- 心エコー検査(心臓超音波検査): 肺高血圧症のスクリーニングにおいて最も有用な検査です。心臓の形態、特に右心室の拡大や機能不全の有無を評価し、三尖弁からの血液の逆流の程度を測ることで、非侵襲的に肺動脈圧を推定します。
- 6分間歩行試験: 患者様が6分間で歩ける距離を測定し、運動耐容能を客観的に評価します。この歩行距離は、病態の進行度や予後予測において極めて重要な指標となります。
肺高血圧症の確定診断に必須となる右心カテーテル検査は、平均肺動脈圧(mPAP)を直接測定しますが、当院では心エコーや6分間歩行試験などの非侵襲的な検査により早期にリスクを評価し、必要に応じて専門的な施設への連携を行います。
治療
肺高血圧症の治療は、原因となるWHOグループや病態の進行度に応じて大きく異なりますが、特に指定難病である肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する治療は、専門的な肺血管拡張薬を中心とした高度な管理を要します。治療の目標は、肺動脈圧を下げ、右心室の負担を軽減し、患者様の予後とQOLを改善することです。
肺高血圧症の治療方法
治療は、患者様の病態とリスクを正確に評価した上で、複数のアプローチを組み合わせて行われます。
- 肺血管拡張薬による多剤併用療法(PAHの場合): PAHの治療薬は、肺血管拡張に関わる3つの主要な経路を標的としています。エンドセリン受容体阻害薬や一酸化窒素経路増強薬などが用いられ、これらを組み合わせて使用する多剤併用療法が標準的な治療戦略となっています。
- プロスタサイクリン製剤: 最も強力な血管拡張作用を持ち、重症例に対しては、持続的な静脈注射または皮下注射が必要となることがあります。
- 基礎疾患の治療: 左心疾患(Group 2)や慢性呼吸器疾患(Group 3)が原因の場合は、まずはその基礎疾患(心不全、COPD、間質性肺炎など)の治療を徹底することが、肺高血圧の改善に不可欠です。
- 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)の治療: 血栓が原因であるCTEPH(Group 4)については、薬物療法に加え、カテーテル治療や外科的な手術など、血栓を取り除く根本的な治療が適用される場合があります。
肺高血圧症は、治療が複雑であり、病態が重篤化する前に速やかに専門的な内科的治療を開始することが極めて重要となります。当院では、患者様一人ひとりの病態とリスクを正確に把握し、最適な内科的治療を行うとともに、高度な治療が必要な場合には、専門治療施設との緊密な連携のもと、患者様が最新かつ最適な治療を受けられるよう努めています。