DISEASE

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慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、かつて「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれていた病気の総称です。主に長年の”喫煙習慣”によって、空気の通り道である気管支が炎症を起こしたり、酸素の交換を行う肺胞という組織が壊れたりすることで、スムーズな呼吸ができなくなる病気です。

肺の中で何が起きているのか?

健康な肺はスポンジのような弾力がありますが、COPDになると肺の中で主に以下の2つの変化が起こります。

  • 気管支が細くなる 炎症によって空気の通り道が腫れて壁が厚くなり、空気の通り道(内腔)が狭くなります。また、炎症の影響で分泌物(痰)が増えて溜まりやすくなり、さらに空気を出し入れしにくくなります。
  • 肺胞が壊れる(肺気腫) 酸素を取り込むための小さな袋(肺胞)が壊れて互いに合体し、古くなったゴムのように伸びきって弾力を失ってしまいます。その結果、吸った空気をうまく吐き出すことができず、新しい酸素が肺に入りづらくなってしまいます。

これらを例えると、「細いストローを使い、さらに胸の周りにきついコルセットを巻かれた状態」で一生懸命呼吸をしているようなイメージです。

この病気は「肺の生活習慣病」とも言われており、日本国内では40歳以上の約10人に1人が患っていると推定されています。しかし、実際には治療を受けている方はそのうちのわずか5%程度に過ぎません。多くの方が、階段の上り下りでの息切れや長引く咳を「歳のせい」や「タバコを吸っているから当たり前」と思い込み、受診が遅れてしまう現状があります。

一度壊れてしまった肺胞は、残念ながら現代の医学でも元の健康な状態に戻すことはできません。しかし、早期に発見し、適切な治療と生活習慣の改善を始めることで、息苦しさを和らげ、病気の進行を遅らせることが十分に可能です。タバコを吸っている(あるいは吸っていた)方で、少しでも「最近息切れが気になる」と感じたら、まずは相談に来ていただくことが大切です。

COPDの診断と重症度分類

COPDかどうかを調べるために、最も基本的で欠かせないのが「呼吸機能検査(スパイロメトリー)」です。この検査では、スパイロメーターという機械に繋がった筒をくわえ、息を思い切り吸い込んだ後、一気に力いっぱい吐き出す動作を行います。

この検査で特に重視されるのが「1秒率」という数値です。これは、吐き出し始めてから最初の1秒間に全体の何%の空気を吐き出せたかを示すもので、70%を下回ると、気道が狭くなっている(閉塞性障害がある)と判断されます。

診断が確定した後は、肺の機能がどの程度保たれているかによって、以下の4つのステージに分類されます。

  • ステージ1(軽症): 呼吸機能は保たれており、自覚症状はほとんどありません。咳や痰が出ることがあっても「風邪かな?」と見過ごしがちな段階です。
  • ステージ2(中等症): 坂道や階段で他の人より遅れたり、途中で立ち止まって休んだりすることが増えます。この段階で「おかしい」と気づいて受診される方が多いです。
  • ステージ3(重症): 平地を歩いていても息苦しさを感じることがあり、日常生活にかなりの制限が出てきます。
  • ステージ4(最重症): 安静にしていても息苦しく、着替えや入浴、食事といった身の回りの動作だけでも激しい息切れを伴います。酸素を補う治療が必要になることもあります。

大切なのは、検査の数値と、ご自身が感じる「つらさ」が必ずしも一致しないことです。たとえ軽症の段階でも、適切に対処することで、将来的に呼吸が困難になるリスクを大きく減らすことができます。

COPDの薬物療法

COPDの薬物療法は、今ある息苦しさを和らげること、そして急な体調の悪化を防ぐことを目的としています。

治療の中心となるのは、狭くなった気道を広げる「気管支拡張薬」です。これには飲み薬や貼り薬もありますが、薬の成分を直接肺に届け、全身への影響を最小限に抑えられる「吸入薬」が主に使用されます。

吸入薬には、大きく分けて以下の種類があります。

  • 抗コリン薬(LAMA): 気道の筋肉が縮むのを抑えるお薬で、COPDの治療において最も一般的で効果が高いとされています。
  • β2刺激薬(LABA): 気道の筋肉を広げるお薬です。1日1〜2回の吸入で長時間効果が持続し、息切れを軽減します。
  • 配合剤: 作用の異なる複数のお薬を一つにまとめたもので、より強力に気道を広げる効果があります。
  • 吸入ステロイド薬: 喘息の成分も持っている方や、症状の悪化を繰り返す方に組み合わせて使用されます。

これらの吸入薬は、ただ持っているだけでは効果がありません。「正しい手順で、正しく吸い込むこと」が何よりも重要です。吸入の方法が不適切だと、せっかくのお薬も肺まで届きません。また、ステロイドを含むお薬を使った後は、喉の荒れを防ぐために必ずうがいを行うようにしましょう。当院では、患者さまが安心してお薬を使い続けられるよう、丁寧な吸入指導を心がけています。

COPDと呼吸リハビリテーション

呼吸リハビリテーションとは、お薬以外の方法で呼吸を楽にし、快適に生活するためのトレーニングや工夫のことです。

まず身につけていただきたいのが、効率的な呼吸法です。

  • 口すぼめ呼吸: 鼻からゆっくり息を吸い、口を笛を吹くようにすぼめて、吸う時間の2倍以上の時間をかけてゆっくり吐き出します。これにより気道の中に圧力がかかり、息を吐き出す途中で気道が潰れるのを防ぐことができます。
  • 腹式呼吸: 仰向けになり、お腹が膨らむのを感じながら吸い、お腹をへこませながらゆっくり吐き出します。横隔膜を大きく動かすことで、一度に多くの空気を取り込めるようになります。

また、COPDの方は息切れを恐れて体を動かさなくなりがちですが、これが筋力低下を招き、さらに息苦しくなるという悪循環に陥りやすいです。無理のない範囲でのウォーキングや、椅子からの立ち座り(スクワット)などの筋力トレーニングを継続することが推奨されます。

日常生活の工夫も重要です。

  • 入浴: 浴室に椅子を置き、座って洗うことで体力を温存します。
  • 食事: COPDの方は呼吸に多くのエネルギーを使うため、痩せやすくなります。高タンパク・高エネルギーな食事を心がけ、一度にたくさん食べられない場合は、食事の回数を分けるなどの工夫が有効です。

COPDの増悪予防と対策

COPDを管理する上で、最も警戒すべきなのが「増悪(ぞうあく)」と呼ばれる状態です。これは、風邪やインフルエンザなどの感染症をきっかけに、咳や痰、息切れといった普段の症状が急激に悪化することを指します。増悪を繰り返すと、肺機能は階段を下りるように急速に低下してしまい、その後の命に関わることもあります。

増悪を防ぐための基本は、何よりも「予防」です。

  • 禁煙の継続: 禁煙は肺の機能を守る唯一かつ最大の方法です。ご自身だけでなく、周囲のタバコの煙(受動喫煙)を避けることも欠かせません。
  • ワクチン接種: インフルエンザワクチン(毎年)と肺炎球菌ワクチン(5年ごと)の接種は、増悪の頻度を下げ、重症化を防ぐために非常に効果的です。
  • 日々の衛生習慣: 外出後の手洗いやうがいの徹底、人混みでのマスク着用を心がけましょう。

もしも「痰の量が急に増えた」「痰の色が黄色や緑色に変わった」「少し動くだけでいつもより激しく息が切れる」といった兆候があれば、それは増悪のサインかもしれません。

COPDは、早期発見と適切な管理によって、ご自身の生活の質を長く維持できる病気です。「このくらいは歳のせい」と我慢せず、少しでも呼吸に不安を感じた際には、ぜひ一度当院へご相談ください。