DISEASE
病名から探す睡眠時無呼吸症候群(SAS)
「寝ている間にいびきが止まり、しばらくして大きな音とともに呼吸が再開する」。ご家族や周囲の方から、このような指摘を受けたことはありませんか? 睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、眠っている間に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。単なるいびきの問題と思われがちですが、放置すると心臓や血管に大きな負担をかけ、命に関わる病気を引き起こすリスクがあるため、適切な対策が必要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の分類
SASは、その原因によって大きく3つのタイプに分類されます。
- 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA) 上気道(空気の通り道)が物理的に閉塞して気流が停止し、無呼吸になるタイプです。SASのほとんどがこのタイプに該当します。
- 中枢性睡眠時無呼吸(CSA) 脳にある呼吸中枢の機能異常により、呼吸指令が出なくなることで呼吸筋が緩み、無呼吸になるタイプです。閉塞性に比べて無呼吸時間が短く、酸素飽和度の低下も少ないため、呼吸・循環・脳神経系への影響は比較的少ないとされています。
- 混合性睡眠時無呼吸 同じ無呼吸発作中に、中枢性から閉塞性へと移行するタイプです。
疫学
- 成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられます。
- 男性では40歳~50歳代が半数以上を占めます。
- 女性は閉経後に増加する傾向があります。
睡眠時無呼吸(SAS)のメカニズム

睡眠により筋肉がリラックスすると、上気道が狭窄していびきが生じます。さらに進行して上気道が完全に塞がると、呼吸が停止します。 SAS患者様は、睡眠中に以下のサイクルを繰り返しています。
睡眠→上気道狭窄→低呼吸・無呼吸 →覚醒反応→呼吸・睡眠再開
この繰り返される無呼吸と覚醒が、循環器系や精神状態に深刻な影響を与えます。
睡眠時無呼吸(SAS)の合併症
無呼吸による酸素不足とストレスは、全身にさまざまな疾患を引き起こします。
- 循環器・血管系:高血圧、不整脈、虚血性心疾患(心筋梗塞など)、脳血管障害(脳卒中など)、多血症、突然死
- 精神・神経系:精神疾患(うつ状態など)、認知障害
無呼吸・低呼吸の定義と指数(AHI)
診断の基準となる重要な指標です。
指数の違い
- AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数) 1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数です。正確な算出には脳波による睡眠時間の測定が必要です。
- RDI(Respiratory Disturbance Index:呼吸障害指数) 脳波を装着しない簡易検査で使用されます。合計回数を「検査時間(睡眠時間ではない)」で割って算出します。
用語の定義
- 無呼吸:呼吸が10秒以上停止した状態。
- 低呼吸:呼吸の振幅が30%以上低下し、かつ10秒以上持続し、酸素飽和度が3%以上低下あるいは覚醒反応を伴うもの。
SASが疑われる場合の検査
SASの疑いがある場合は、まず以下の検査で評価を行います。
1. 簡易検査(アプノモニター)
自宅で普段通りに寝ながら行える手軽な検査です。
- 測定項目: 鼻口の気流(呼吸)、指先のセンサーによる血中酸素飽和度(SpO2)の2項目が中心です。
- 目的: 病気の可能性を初期段階で判定し、精密検査の必要性を確認するために行われます。
- 特徴:
- 脳波を測らないため、正確な「睡眠時間」は分かりません。そのため、指数は「RDI」として算出されます。
- 重症(AHI 40以上)と診断された場合は、そのままCPAP療法の適応となることがあります。
- 費用(3割負担目安): 約3,000円~4,000円
2. 睡眠ポリグラフ検査(PSG)
「精密検査」にあたり、睡眠の状態を網羅的に解析します。
- 測定項目: 脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、血中酸素飽和度、いびき音、睡眠時の姿勢・動きなど、多数のセンサーを装着します。
- 目的: 睡眠の質(深さ)や、無呼吸の正確な重症度、他の睡眠障害の有無を確認します。
- 特徴:
- 脳波を測定するため、実際に「眠っていた時間」を正確に特定でき、精度の高い「AHI」が算出されます。
- 医療機関に一晩入院して行うのが一般的ですが、最近では在宅で行える高度なキットもあります。
- 費用(3割負担目安):
- 在宅PSG:1万円強
- 入院PSG:2万円~5万円程度(施設による)
SASの診断規準と重症度
日中の眠気などの症状があり、かつ検査結果が以下の条件を満たす場合にSASと診断されます。
診断規準
- AHI 5以上(かつ眠気などの症状を認める場合)
重症度分類(AHI)
- 軽症:5以上 15未満
- 中等症:15以上 30未満
- 重症:30以上
治療法とCPAPの適応
症状や重症度に合わせて、以下の治療法を組み合わせて行います。
CPAP(シーパップ)療法の適応
健康保険を適用してCPAP治療を開始するには、以下の基準が必要です。
- 精密検査(PSG)の場合:AHI 20以上かつ日中の眠気などの症状がある
- 簡易検査(OCST)の場合:AHI 40以上かつ日中の眠気などの症状がある
※主に重症の睡眠時無呼吸症候群の方が保険診療の対象となります。判定基準は、現在は簡易検査でAHI 40以上(またはPSGでAHI 20以上)ですが、2026年6月からは簡易検査でAHI 30以上(またはPSGでAHI 15以上)へと変更されます。
その他の治療選択肢
- OA療法(マウスピース):下顎を前方へ固定し気道を確保。
- 減量:肥満解消による気道圧迫の軽減。
- 側臥位(横向き寝):重力による舌の落ち込みを防止。
- 耳鼻咽喉科的手術:扁桃肥大などの物理的原因の除去。
- 酸素療法:中枢性などの場合。
- 顎顔面形成術:骨格的な原因の修正。
CPAP療法の具体的な効果
適切にCPAPを使用(1日4時間以上が目安)することで、劇的な改善が期待できます。
- 心血管イベントの抑制 AHI 30の重症者は致死的な心血管イベントリスクが高いですが、4時間以上の装着で健常者レベルまでリスクが改善します。
- 日中の眠気の改善:4時間以上の装着で改善。
- 高血圧の改善:4時間以上の装着で有意な血圧低下。
- 覚醒維持時間の延長:6時間以上の装着で改善。
- 主観的な健康感:7.5時間の装着で最も高い健康感(すっきり感)が得られます。
睡眠時無呼吸症候群は、適切な治療によって健康な毎日を取り戻せる病気です。まずは検査による現状の把握から始めましょう。