COLUMN

院長コラム
2026.01.11

重症喘息の新しい選択肢「生物学的製剤」とは?

標準治療でもコントロールが難しい喘息がある

喘息治療の基本は吸入ステロイド薬と長時間作用性気管支拡張薬の併用です。多くの患者さんはこれらの治療で症状をコントロールできますが、高用量の吸入ステロイド薬に加え、複数の薬剤を併用しても十分なコントロールが得られない患者さんが全体の5〜10%程度存在します。

こうした「重症喘息」は、頻繁な発作や夜間の咳・息苦しさにより日常生活に大きな支障をきたし、仕事や学業に影響が出たり、入院や救急受診を繰り返したりすることも少なくありません。やむを得ず経口ステロイド薬に頼る場合には、骨粗鬆症、糖尿病、副腎機能低下、白内障、感染症リスクの増大などの全身性の副作用が大きな問題となります。このような患者さんに新たな希望をもたらしているのが、生物学的製剤です。

重症喘息とは

ERS/ATSの国際ガイドラインでは、GINA治療ステップ4〜5に相当する治療を適切に行い、吸入薬の使い方(吸入手技)や服薬アドヒアランスにも問題がなく、合併症(アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、逆流性食道炎、肥満など)の管理も行ったうえで、なお症状が持続する場合に「重症喘息」と分類されます(Chung KF, et al. Eur Respir J. 2014)。

重症喘息は均一な疾患ではなく、いくつかのタイプ(フェノタイプ)に分けられます。血液中の好酸球が増加する「好酸球性喘息」、特定のアレルゲンに対するIgE抗体が関与する「アレルギー性喘息」、好酸球もIgEも目立たない「非2型喘息」などがあり、このタイプの見極めが最適な生物学的製剤の選択に直結します。

生物学的製剤の仕組み

生物学的製剤は、喘息の炎症に関わる特定の分子をピンポイントで抑える注射薬です。従来の吸入ステロイド薬が気道の炎症全体を広く抑えるのに対し、生物学的製剤はIgE、IL-5、IL-4/IL-13、TSLPといった特定の炎症性物質(サイトカイン)だけを標的にします。いわば「精密誘導型」の治療であり、不要な免疫抑制を最小限に抑えつつ、喘息の根本にある炎症メカニズムを効率よくブロックすることが可能です。

主な生物学的製剤の種類

現在、日本で喘息治療に使用できる主な生物学的製剤は以下の通りです。

  • 抗IgE抗体(オマリズマブ):アレルギー性の重症喘息に使用。血中のIgEを直接捕捉し、アレルギー反応の連鎖を断ちます。2〜4週ごとの皮下注射で投与します。
  • 抗IL-5抗体(メポリズマブ):好酸球性喘息に使用。IL-5は好酸球の産生と活性化に不可欠なサイトカインであり、これを抑えることで血中・気道の好酸球を減少させます。4週ごとの皮下注射です。
  • 抗IL-5受容体抗体(ベンラリズマブ):好酸球表面の受容体に直接結合し、好酸球をほぼ完全に除去します。最初の3回は4週ごと、以降は8週ごとの投与です。
  • 抗IL-4/IL-13受容体抗体(デュピルマブ):好酸球性喘息やアトピー型喘息に幅広く使用。IL-4とIL-13の両方をブロックし、2型炎症全体を抑制します。2週ごとの皮下注射で、自己注射も可能です。
  • 抗TSLP抗体(テゼペルマブ):炎症の最上流に位置するTSLPを阻害します。フェノタイプを問わず幅広い重症喘息に効果が期待されます。

どんな患者さんが対象になるか

生物学的製剤の対象となるのは、高用量吸入ステロイド薬を含む標準治療を十分に行っても症状が改善しない方です。血液検査で好酸球数が高い方、呼気NO値(FeNO)が高い方、特定のアレルゲンに対するIgE抗体が陽性の方など、バイオマーカーの結果に基づいて最適な薬剤が選ばれます。年齢や体重によって投与量が調整される薬剤もあります。

治療の効果と注意点

生物学的製剤の導入により、多くの重症喘息患者さんで以下のような改善が報告されています。

  • 喘息増悪(発作)の頻度が50〜70%減少する
  • 経口ステロイド薬の減量や中止が可能になる
  • 日常症状(咳、息切れ、夜間覚醒)が改善する
  • 肺機能(FEV1)の改善が得られることがある
  • 生活の質(QOL)スコアが有意に向上する

効果は数週間〜数か月かけて徐々に現れることが多く、短期間で判断せず一定期間継続することが大切です。副作用として注射部位の腫れ・赤み・痛みがありますが、多くは軽度で一時的です。重篤な副作用(アナフィラキシー等)は稀ですが、初回投与時は医療機関で経過観察が行われます。なお、生物学的製剤を開始しても吸入ステロイド薬などの基本治療は自己判断で中止せず継続してください。

まとめ

生物学的製剤は、標準治療では効果が不十分な重症喘息患者さんにとって画期的な治療選択肢です。喘息のタイプに応じた最適な薬剤を選択することで、発作頻度の減少やステロイド内服の減量が実現し、日常生活の質を大きく改善できる可能性があります。「どの薬を使っても良くならない」と感じている方は、一度呼吸器専門医に相談されることをおすすめします。