COLUMN

院長コラム
2026.01.13

在宅酸素療法(HOT)を始めたら、生活はどう変わる?旅行はできる?

はじめに ― HOTへの不安を解消する

「酸素を使う生活になったら、もう自由に動けないのでは?」と不安に感じる方は少なくありません。在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)は、慢性呼吸不全の患者さんが自宅で酸素を吸入しながら日常生活を送るための治療法です。実際にはHOTを導入したことで息切れが軽減し、むしろ活動範囲が広がったという方も多くいらっしゃいます。ここでは、HOTの基本的な仕組みから日常生活での工夫、旅行時の対応まで、具体的に解説します。

HOTの仕組みと機器について

HOTでは、主に酸素濃縮装置と携帯用酸素ボンベの2種類の機器を使用します。酸素濃縮装置は室内の空気から酸素を濃縮して供給する据え置き型の装置で、電源があれば24時間連続して使用できます。重さは約20〜30kgほどありますが、キャスター付きで室内での移動は比較的容易です。電気代は月に約1,000〜2,000円程度の負担増となります。

一方、携帯用酸素ボンベは外出時に使用する小型のボンベで、カートやリュック型のキャリーバッグに入れて持ち運びます。ボンベの容量や酸素流量によって使用可能時間が異なりますが、呼吸同調式のレギュレーターを使えばボンベの持ち時間を延ばすことができます。通常、300リットルのボンベで約3〜6時間程度の外出が可能です。

日常生活はこう変わる ― 家事・入浴・外出

家事について

酸素チューブ(カニューラ)を装着したまま、掃除・洗濯・料理などほとんどの家事を行うことができます。長いチューブ(最大15m程度)を使えば、家の中を自由に移動できます。ただし、チューブが家具に引っかからないよう、動線を整理しておくと安心です。掃除機をかけるときなど、動作で息切れが強くなる場合は、酸素流量を一時的に上げるよう主治医から指示されていることもあります。

入浴について

入浴も酸素を使いながら行えます。浴室まで延長チューブを引くか、携帯用ボンベを脱衣所に置いて使用します。入浴は体力を消耗しやすい動作のため、湯温はぬるめ(38〜40℃)にし、長湯は避けましょう。洗髪や体を洗う動作で息が上がりやすい場合は、シャワーチェアを活用すると負担が軽減されます。

外出について

携帯用酸素ボンベを使えば、買い物や散歩、通院など日常的な外出は十分に可能です。外出前にボンベの残量を確認し、予備のボンベを車に積んでおくと安心です。最近は軽量タイプの携帯用酸素濃縮装置(ポータブル酸素濃縮装置)も普及しており、バッテリーで数時間使用できるものもあります。

旅行はできるのか ― 飛行機・宿泊先での対応

HOTを使用していても、旅行をあきらめる必要はありません。ただし、事前の準備が大切です。

飛行機での移動

航空機内は気圧が地上より低く(約0.8気圧)、酸素分圧が下がるため、普段より多くの酸素が必要になることがあります。航空会社に事前に連絡し、機内での酸素使用について申請が必要です。多くの航空会社では医師の診断書の提出が求められます。自分のボンベは機内持ち込みが制限されることが多いため、航空会社が提供する機内用酸素ボンベを利用するか、航空会社が認可した携帯用酸素濃縮装置を使用します。少なくとも出発の2〜4週間前までに手続きを始めましょう。

宿泊先での対応

国内旅行の場合、酸素供給業者に連絡すれば旅行先のホテルや旅館に酸素濃縮装置やボンベを事前に配送・設置してもらえるサービスがあります。宿泊先にもあらかじめ酸素機器を使用することを伝えておきましょう。海外旅行の場合は、渡航先での酸素手配が可能かどうか、事前に主治医や酸素供給業者と相談することが重要です。

火気に関する重要な注意点

酸素そのものは燃えませんが、物が燃えるのを助ける性質(支燃性)があります。酸素使用中は、2m以内に火気を近づけないでください。ガスコンロ・仏壇のろうそく・線香・喫煙は特に注意が必要です。タバコは酸素使用中に絶対に吸ってはいけません。実際に酸素吸入中の喫煙による火災事故が報告されており、重篤なやけどや死亡に至るケースもあります。IHクッキングヒーターへの変更や、仏壇の電子ろうそくの使用なども検討しましょう。

よくある質問

Q. 酸素は一度始めたらやめられないのですか?

A. 酸素療法は病状に応じた治療です。肺の状態が改善すれば中止できる場合もありますが、慢性呼吸不全の多くは長期的な使用が必要です。定期的な検査で酸素の必要性を評価します。

Q. 酸素を吸いすぎると体に悪いですか?

A. 指示された流量を守っていれば問題ありません。ただし、COPDの方はCO2ナルコーシスのリスクがあるため、自己判断で流量を増やすことは避け、必ず主治医の指示に従いましょう。

Q. 停電のときはどうすればよいですか?

A. 予備の携帯用酸素ボンベを常に自宅に備えておきましょう。酸素供給業者に緊急時の対応を事前に確認しておくことも大切です。

まとめ

HOTは「生活を制限するもの」ではなく、「より安全に、より活動的に過ごすためのパートナー」です。正しい使い方を身につければ、家事も外出も旅行も楽しめます。不安なことがあれば、主治医や酸素供給業者、看護師に気軽に相談してください。酸素とうまく付き合いながら、自分らしい生活を続けていきましょう。