COLUMN

院長コラム
2026.01.13

COPD患者さんの息切れを楽にする「口すぼめ呼吸」のやり方

息切れとの付き合い方

COPD(慢性閉塞性肺疾患)とともに生活する中で、息切れは最もつらい症状の一つです。階段の上り下りや坂道の歩行、入浴や着替えといった日常動作でも息苦しさを感じることがあります。息切れを恐れて活動を制限してしまうと、体力や筋力の低下を招き、さらに息切れが悪化するという悪循環に陥りがちです。そこで、息切れを和らげるためのセルフケアとして、「口すぼめ呼吸」という呼吸法が広く推奨されています。

なぜCOPDで息切れが起こるか

COPDでは、気管支の慢性的な炎症によって気道が狭くなり、肺胞が壊れることで空気の出入りがスムーズにいかなくなります。とくに息を吐く際に気道がつぶれやすく、肺の中に空気が溜まってしまう「エアトラッピング」という現象が起こります。

エアトラッピングにより肺が過膨張した状態になると、横隔膜が下がったままの位置に固定され、効率的に呼吸をすることが難しくなります。次の息を吸おうとしても十分に吸えず、息苦しさを感じるのです。この悪循環を改善するために有効なのが、口すぼめ呼吸です。

口すぼめ呼吸とは

口すぼめ呼吸とは、唇をすぼめて(口笛を吹くような形にして)ゆっくりと息を吐く呼吸法です。英語では「Pursed Lip Breathing(PLB)」と呼ばれ、COPDの呼吸リハビリテーションにおいて基本的かつ最も重要なテクニックの一つとされています。

口をすぼめることで、吐く息に軽い抵抗がかかり、気道内の圧力が保たれます。これにより、気道がつぶれるのを防ぎ、肺に溜まった空気を効率よく排出することができます。その結果、エアトラッピングが軽減され、次の吸気がスムーズになり、息苦しさが和らぐのです。

具体的なやり方(ステップ)

口すぼめ呼吸は、特別な道具を必要とせず、いつでもどこでも行える簡単な方法です。以下の手順で練習してみましょう。

  • ステップ1:リラックスした姿勢をとります。椅子に座った状態がやりやすいです。肩の力を抜き、背筋を軽く伸ばしましょう。
  • ステップ2:鼻からゆっくり息を吸います。このとき、口は閉じたままで、2秒程度かけて吸い込みます。「1、2」と心の中で数えるとよいでしょう。
  • ステップ3:唇をすぼめます。口笛を吹くような形、またはろうそくの炎をゆっくり揺らすようなイメージで唇を軽くすぼめます。
  • ステップ4:すぼめた口から、ゆっくりと息を吐きます。吸った時間の2倍(4秒程度)をかけて、細く長く吐き出します。「1、2、3、4」と数えながら行いましょう。
  • ステップ5:これを数回繰り返します。慣れてきたら、吐く時間をさらに長くすることも可能ですが、無理は禁物です。

最初は安静時に練習し、慣れたら動作中(歩行時や階段昇降時など)にも取り入れていきましょう。力を入れすぎず、リラックスして行うのがコツです。

効果とエビデンス

口すぼめ呼吸の効果は、複数の研究で確認されています。具体的には、呼吸数の減少、一回換気量の増加、動脈血酸素飽和度の改善、息切れ感の軽減などが報告されています。これらの効果は、気道内圧を維持することで気道の虚脱を防ぎ、換気効率を向上させることによるものと考えられています。

呼吸リハビリテーションプログラムにおいても、口すぼめ呼吸は基本的な訓練項目として位置づけられており、継続的に実践することで運動耐容能の向上や生活の質の改善につながることが示されています。

日常での活用シーン

口すぼめ呼吸は、日常のさまざまな場面で活用できます。以下のような状況で試してみてください。

  • 歩行中に息切れを感じたとき:立ち止まり、口すぼめ呼吸を数回行ってから歩き始めましょう。歩行中も吐くタイミングを歩調に合わせると効果的です。
  • 階段の昇降時:一段上がるごとに口すぼめで息を吐くリズムを作ると、息切れを軽減できます。
  • 入浴時:お湯の熱さや湿気で息苦しくなりやすい場面です。動作の合間に口すぼめ呼吸を挟みましょう。
  • 不安やパニックを感じたとき:息切れが不安を引き起こし、さらに呼吸が速くなることがあります。口すぼめ呼吸で呼吸を整えることで、気持ちも落ち着きやすくなります。

腹式呼吸との組み合わせ

口すぼめ呼吸の効果をさらに高める方法として、腹式呼吸(横隔膜呼吸)との組み合わせがあります。腹式呼吸は、横隔膜を意識的に使って呼吸する方法で、胸ではなくお腹を膨らませるように息を吸い、お腹をへこませるように息を吐きます。

具体的には、鼻から息を吸いながらお腹を膨らませ、口をすぼめてゆっくり息を吐きながらお腹をへこませます。仰向けに寝た状態でお腹の上に手を置いて練習すると、横隔膜の動きを感じやすくなります。この組み合わせにより、より深く効率的な呼吸が可能になり、息切れの軽減効果が一層期待できます。ただし、重症のCOPDの方では腹式呼吸がかえって疲労を招く場合もありますので、医療スタッフの指導のもとで行うのが安全です。

まとめ

口すぼめ呼吸は、COPDによる息切れを和らげるための簡単で効果的なセルフケアの方法です。特別な道具は不要で、いつでもどこでも実践できます。継続的に取り組むことで、日常生活の中での息切れが軽減され、活動範囲を広げることにつながります。腹式呼吸との組み合わせも効果的ですので、ぜひ取り入れてみてください。呼吸法について不安な点があれば、医療スタッフにお気軽にご相談ください。

参考文献:Bianchi R, et al. Effects of pursed-lip breathing on exercise capacity in COPD patients. Respir Med. 2004.