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逆流性食道炎

逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症(びらん)を起こす病気です。食生活の欧米化や加齢に伴い、日本でも非常に身近な疾患となっています。

逆流性食道炎の疫学(日本における現状)

日本国内における最新の調査・統計では、以下のような傾向が見られます。

項目特徴・詳細
有病率日本人の約 5〜10% が患っていると言われています。
男女比男女差はほぼ同等ですが、近年は 女性にやや多い 傾向も報告されています。
年齢分布40代以降 から増加し、特に 高齢者 に多く見られるのが特徴です。
内視鏡での所見胃カメラ検査(内視鏡)を受けた方の 10〜20% に食道びらん(粘膜のただれ)が認められます。

症状

逆流性食道炎は、強い酸性を持つ胃液や消化中の食べ物が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症や「ただれ」を引き起こす病気です。本来、食道の粘膜は酸に対する防御機能が弱いため、逆流が繰り返されることで粘膜が傷つき、胸やけなどの不快な症状が持続します。現代の食生活の変化や高齢化に伴い、成人の5人に1人がこの病気にかかっているとも言われる非常に身近な疾患です。

逆流性食道炎の症状は、胃の周辺だけでなく、喉や気管などの「呼吸器」にも多彩な影響を及ぼすのが大きな特徴です。

  • 胸やけ・酸っぱいものが上がる: 胸のあたりが熱くなるような痛みや、酸っぱい液体が口までこみ上げてくる感覚が生じます。
  • 喉の違和感と声のかすれ: 胃酸が喉まで達することで、喉のヒリヒリ感や何かが詰まったような違和感、声のかすれが起こります。
  • 長引く咳・喘息の悪化: 胃酸が喉や気管を刺激することで、夜間や食後に激しい空咳が続いたり、持病の喘息が悪化したりすることがあります。
  • 胸痛・みぞおちの痛み: 食後に胸やみぞおちが締め付けられるように痛み、心臓の病気と見分けがつきにくいほど強く感じる場合があります。
  • お腹の張り・ゲップ: 胃の中に空気が溜まったり消化が遅れたりすることで、腹部の膨張感や頻繁なゲップが出やすくなります。
  • 口の中の不快感: 起床時の口内の酸っぱさや、酸によって歯が溶けることによる知覚過敏、口臭の原因になることがあります。
  • 飲み込みにくさ: 食道の炎症が進行して通り道が狭くなると、食べ物をつかえるように感じたり飲み込みにくくなったりします。

これらの症状は、特に食後や就寝時、または前かがみの姿勢を取った時に悪化しやすい傾向があります。特に「なかなか治らない咳」や「喉の違和感」がある場合、肺や喉の病気ではなく胃酸の逆流が隠れた原因であるケースも少なくありません。放置すると炎症が進行し、深刻な合併症を招く可能性もあるため、早期の対応が重要です。

逆流性食道炎の分類

逆流性食道炎(胃食道逆流症:GERD)は、内視鏡検査の結果によって大きく2つのタイプに分類されます。実は「検査で異常がないのに症状がある」という方が半数以上を占めるのが特徴です。

分類割合特徴
びらん性逆流性食道炎 (GERD)30〜40%内視鏡検査で、食道の粘膜に明らかな炎症(びらん)や潰瘍が認められる状態です。
非びらん性逆流性食道炎 (NERD)60〜70%内視鏡では粘膜に目立った傷は見られませんが、胸やけなどのつらい逆流症状がある状態です。

原因

逆流性食道炎の根本的な原因は、胃と食道のつなぎ目にある「下部食道括約筋」という筋肉の弁が緩むこと、あるいは胃の中の圧力が上昇し、逆流を防ぐ力を上回って内容物が押し上げられることにあります。加齢や生活習慣の乱れによって、本来は逆流を防いでいるこの弁の機能が低下してしまいます。

具体的な原因としては、主に以下のような要因が挙げられます。

  • 筋肉の弁の機能低下: 加齢による筋肉の衰えや、飲酒、喫煙などの影響によって、胃酸の逆流を防ぐ締め付けの力が弱まります。
  • 腹圧の上昇(肥満や姿勢): 内臓脂肪の蓄積は胃を外側から圧迫します。また、猫背などの前かがみの姿勢やお腹を強く締め付ける服装も物理的な逆流を招きます。
  • 食生活の乱れ: 油っこい食事や食べ過ぎ、早食いは胃を膨らませて逆流のリスクを増大させます。
  • 胃の動きの低下と便秘: 消化が遅れて食べ物が長く胃に留まることや、便秘によって腹圧が高まることも原因となります。
  • 胃の構造の変化: 胃の一部が胸の方へ飛び出してしまう「食道裂孔ヘルニア」などの状態になると、逆流防止の仕組みが損なわれます。
  • ストレス: ストレスは胃酸を過剰に分泌させたり、食道の粘膜を敏感にしたりするため、わずかな逆流でも強い不快感を感じやすくなります。

多くの場合、これらの要因が複合的に絡み合って発症します。特に食事をしてすぐに横になる習慣は、重力の助けが得られないため、胃酸が喉の方まで流れ込むきっかけを作ります。

近年、有病率が増加している要因

日本で逆流性食道炎が増えている背景には、主に以下の4つの要因が挙げられます。

  • 高齢化の進行(食道運動機能・唾液分泌の低下) 加齢に伴い、食道の運動機能や唾液の分泌量が低下します。これにより、逆流した胃酸を胃へ押し戻したり中和したりする力が弱まり、GERDの発症・増加につながります。
  • 肥満の増加(腹腔内圧の上昇) 内臓脂肪が増えると腹圧が高まり、下から胃を圧迫します。その結果、胃の内容物が食道へ押し上げられやすくなり、GERDが増加します。
  • 食事の西洋化(下部食道括約筋の弛緩) 高脂肪・高タンパクで低繊維な食事は、胃の入り口(下部食道括約筋)を緩ませる性質があります。欧米型の食習慣が定着したことが、GERD増加の大きな要因の一つです。

ピロリ菌感染率の低下(胃酸分泌の増加) ピロリ菌の除菌や衛生環境の改善により、胃酸がしっかりと分泌される健康な胃を持つ人が増えました。胃酸の分泌が盛んになることで、逆流した際の食道へのダメージが強まり、GERDの増加に関与しています。

診断

診断では、まず患者様がどのような症状に困っているかを詳しく伺う「問診」が非常に重要です。胸やけなどの典型的な症状のほかに、喉の不快感や長引く咳といった呼吸器に関わる症状を確認し、他の疾患との見極めを行います。

診断は、主に以下の方法を組み合わせて行います。

  • 問診と症状の評価: 症状が出るタイミングや悪化する動作を詳しくお聞きし、逆流の可能性を探ります。
    【Fスケール問診表はこちら】
  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ): 食道粘膜を直接カメラで観察し、炎症の有無や程度を確認します。他の重篤な疾患がないかを調べるためにも不可欠な検査です。
  • 内臓脂肪の解析: 肥満が原因と疑われる場合、CT検査を用いて内臓脂肪の面積を数値化し、腹圧の影響を客観的に評価することがあります。
  • 呼吸器系の検査: 咳が主な症状である場合、気道の炎症状態を評価する「呼気NO測定」を行い、喘息など他の呼吸器疾患との判別を行います。

胃カメラについては、鼻から入れる「経鼻」と、口から入れる「経口」を選択でき、それぞれの特徴に合わせて検査が可能です。

項目経鼻内視鏡経口内視鏡
身体への負担細いスコープを使用し、嘔吐反射(オエッとする感じ)が非常に少ない舌の根元に触れるため反射が起きやすいが、鎮静剤で眠って受けることも可能
検査中の様子医師と会話ができるため、安心感があり質問も可能会話はできないが、深く眠ったような状態で検査を終えられる
検査後の回復鎮静剤を使わない場合は回復が早く、すぐに帰宅が可能鎮静剤使用後は、院内で1時間程度の休息が必要

特に、長引く咳などの症状で来院された場合、当院では呼吸器疾患と消化器疾患の両面からアプローチを行い、総合的な診断を大切にしています。

治療

逆流性食道炎の治療は、薬によって胃酸をコントロールする「薬物療法」と、原因を根本から減らす「生活習慣の改善」の二本柱で行われます。一度治まったように見えても再発しやすい病気であるため、お薬で症状を抑えている間に、再発しにくい体作りを整えることが非常に重要です。

具体的な治療内容は以下の通りです。

  • 薬物療法: 胃酸の分泌を強力に抑えるお薬(PPIやP-CAB)が治療の中心です。症状に合わせて、胃の動きを助ける薬や粘膜を保護する薬を組み合わせます。
  • 食事の見直し: 胃酸を出しすぎる油もの、甘いもの、刺激物を控えます。「腹八分目」を心がけ、ゆっくり食べることで胃の負担を軽減します。
  • 姿勢と動作の工夫: 食後2〜3時間は横にならないようにし、就寝時は上半身を少し高く保つことで物理的に逆流を防ぎます。
  • 体重管理と適度な運動: 肥満は腹圧を高めて逆流を誘発するため、軽い有酸素運動を取り入れ、無理のない範囲で体重を管理することが改善につながります。
  • 嗜好品のコントロール: 禁煙は逆流を防ぐ筋肉の機能を回復させるために効果的です。また、アルコールやカフェインは特に寝る前の摂取を控えるようにします。

食事については、以下の表を参考に「胃に優しい選択」を意識してみましょう。

カテゴリおすすめの食品(消化が良い)控えたい食品(逆流を招きやすい)
主菜鶏のささみ、白身魚、豆腐、卵脂身の多い肉、揚げ物、ラーメン
野菜・果物キャベツ、大根、バナナ、リンゴ柑橘類、トマト、梅干し、酢の物
飲み物・間食水、白湯、ノンカフェインの麦茶コーヒー、炭酸飲料、アルコール、チョコ
調理方法煮る、蒸す、ゆでる(油を控えめに)揚げる、炒める、激辛スパイスの使用

逆流性食道炎は、単に「胸が焼ける」だけでなく、睡眠を妨げたり、しつこい咳を招いたりと、日々の活動を妨げる要因となります。しかし、適切な治療と生活スタイルの調整を組み合わせれば、多くの方が健やかな生活を取り戻すことができます。当院では、患者様一人ひとりのライフスタイルに寄り添い、無理なく続けられる治療計画を共に考えていきます。気になる症状がある場合は、我慢せずにぜひ一度ご相談ください。