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痩せている人でも睡眠時無呼吸症候群になる?その原因とは

SASは肥満だけの病気ではない

睡眠時無呼吸症候群(SAS)というと、「太っている人がなる病気」というイメージが根強くあります。確かに肥満はSASの最大のリスク因子であり、欧米の研究でも肥満との強い関連が繰り返し報告されてきました。しかし、日本をはじめとするアジア諸国の研究データからは、BMIが正常範囲(18.5〜24.9)の、いわゆる「痩せ型」の方でもSASを発症するケースが少なくないことが明らかになっています。実際、日本のSAS患者の約30%は肥満ではないという報告もあり、「太っていないから自分は大丈夫」という思い込みが、診断の遅れや病気の見逃しにつながっている現状があります。

日本人の顎・顔面の構造的特徴

痩せ型のSASを理解する上で重要なのが、顎や顔面の骨格構造です。欧米人と比較して、日本人を含むアジア人は一般的に顎が小さく、顔面の奥行き(前後径)が短い傾向があります。この骨格的な特徴は、上気道のスペースが生まれつき狭いことを意味します。つまり、脂肪の沈着がなくても、骨格そのものの構造によって気道が狭くなりやすい素因を持っているのです。特に下顎が後退している(下顎後退症)場合、舌の根元が気道に押し込まれやすく、仰向けで寝たときに気道閉塞が起こりやすくなります。この骨格的な要因は体重を減らしても改善しないため、痩せていても無呼吸が生じる大きな原因となっています。

痩せ型SASの主な原因

小顎症・顔面骨格の問題

前述のとおり、下顎が小さい、あるいは後方に位置している場合、気道が物理的に狭くなります。歯科で「噛み合わせが深い」「顎が引っ込んでいる」と言われたことがある方は、このタイプに該当する可能性があります。セファログラム(頭部X線規格写真)を用いた分析で、下顎骨の位置や大きさを客観的に評価することが可能です。

扁桃肥大・アデノイド増殖

口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)が大きい場合、気道のスペースが狭くなり、睡眠中の気道閉塞が起こりやすくなります。子どもの場合はアデノイド(咽頭扁桃)の肥大がSASの主要な原因となることが多く、成人でも扁桃が大きいまま残っている方ではSASのリスクが高まります。扁桃肥大は外見からはわかりにくいこともあり、耳鼻咽喉科での評価が役立ちます。

鼻閉(鼻づまり)

慢性的な鼻づまりがあると、睡眠中に口呼吸になりやすくなります。口呼吸では舌が下方に落ち込みやすく、気道を狭める原因となります。鼻中隔弯曲症、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻ポリープなど、鼻閉の原因はさまざまですが、いずれも気道を狭くしてSASのリスクを高めます。鼻づまりの治療だけでSASが改善するケースもあります。

加齢による筋力低下

年齢を重ねると、全身の筋力が低下するのと同様に、舌や咽頭周囲の筋肉(上気道拡張筋群)も弱くなっていきます。若い頃は筋肉の緊張で気道を保持できていたものが、加齢に伴い筋肉のトーンが低下して気道が虚脱しやすくなります。このため、体重が変わっていなくても、50代以降にいびきが出始めたり、SASを発症したりすることがあります。女性では、閉経後にエストロゲンやプロゲステロンの減少に伴い、上気道の筋緊張が低下し、SASの有病率が男性と同程度まで上昇することが知られています。

アジア人に特有のリスク

Richard W W Leeらの研究(Sleep, 2010年)では、同程度の重症度の閉塞性睡眠時無呼吸患者を比較した結果、欧米人(白人)とアジア人(中国人・日本人)では無呼吸の主な原因が大きく異なることが明らかにされました。

欧米人では「肥満」が主な原因であり、頸部の脂肪沈着によって気道が圧迫されることで無呼吸が生じます。一方、アジア人では「顎の骨格」が主な原因であり、太っていなくても小さな顎や短い顔面前後径といった頭蓋顔面構造の特徴により気道が狭くなって無呼吸が生じます。

また、Lam Bらの研究(Respirology, 2010年)でも、アジア人は欧米人と比べて同じBMIでもSASの重症度が高い傾向があることが示されています。

つまり、アジア人においては、肥満度だけでSASのリスクを判断することは適切ではなく、骨格的な要因も含めた総合的な評価が必要です。日本のガイドラインでも、BMIが正常でもSASを疑う症状がある場合には積極的に検査を行うことが推奨されています。

痩せ型SASが見逃されやすい理由

痩せ型のSASが見逃されやすい理由は複数あります。第一に、患者自身が「太っていないからSASではない」と思い込んでいること。第二に、医療者側にも「SAS=肥満」という先入観がある場合があること。第三に、痩せ型の患者はいびきが比較的静かなことがあり、周囲が気づきにくいこと。第四に、日中の眠気を「加齢のせい」「疲れのせい」と片付けてしまうことが挙げられます。しかし、痩せ型であっても中等症〜重症のSASが見つかることは珍しくなく、心血管リスクは肥満のSAS患者と同様に存在します。

検査を受けることの重要性

いびきや日中の眠気、朝の頭痛、夜間頻尿などの症状がある場合は、体型にかかわらずSASの検査を受けることが大切です。自宅でできる簡易検査は、手軽に行える初期スクリーニングとして有用です。痩せ型のSASでは、減量だけでは改善しないため、CPAP療法やマウスピース(口腔内装置)による治療が中心となります。骨格的な問題が大きい場合には、耳鼻咽喉科や口腔外科での評価・治療が必要になることもあります。自分の体型だけで判断せず、症状があれば専門の医療機関に相談することが重要です。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群は肥満の方だけの病気ではありません。日本人はアジア人特有の顎の小ささや顔面骨格の特徴から、痩せていてもSASを発症しやすい素因を持っています。小顎症、扁桃肥大、鼻閉、加齢による筋力低下など、肥満以外の原因も多く存在します。体型にかかわらず気になる症状がある方は、早めの検査・受診が健康を守る上で非常に大切です。