非結核性抗酸菌症について、知っておきたいこと
増加している呼吸器感染症
近年、日本において非結核性抗酸菌症(NTM症)の患者数が増加しています。国内の疫学調査では、NTM症の罹患率は結核を上回るまでに増えており、特に中高年の女性に多い傾向があります。あまり聞き慣れない病名かもしれませんが、呼吸器内科では比較的よく見かける疾患であり、正しい知識を持つことが大切です。
NTM症とは
非結核性抗酸菌(Nontuberculous Mycobacteria:NTM)とは、結核菌とらい菌を除く抗酸菌の総称で、200種類以上の菌種が知られています。日本で最も多いのはMAC(Mycobacterium avium complex)と呼ばれる菌種で、NTM肺感染症の約80~90%を占めます。次いでMycobacterium kansasiiが多く見られます。
これらの菌は、土壌、水(特に浴室のシャワーヘッドや給湯システム)、ほこりなど、日常の環境中に広く存在しています。健康な方が吸い込んでも通常は病気を発症しませんが、体質的な要因や局所的な肺の構造異常などの条件が重なると、菌が肺に定着して慢性的な感染を引き起こすことがあります。
結核との違い――人にはうつらない
「抗酸菌」という名前から結核を連想し、「人にうつるのではないか」と心配される方がいますが、NTM症は結核とは異なり、人から人への感染は起こらないと考えられています。結核の場合は感染者の咳やくしゃみに含まれる菌が空気中に浮遊して他の人に感染しますが、NTMではそのような空気感染は確認されていません。
そのため、NTM症と診断されても、学校や職場を休む必要はなく、家族への感染を心配する必要もありません。結核と混同して不必要な隔離や偏見にさらされることのないよう、この違いを正しく理解しておくことが重要です。また、結核とは異なり、NTM症は感染症法に基づく届出の対象疾患ではありません。
症状と診断
NTM肺感染症の症状は、初期には無症状であることも多く、健康診断の胸部X線やCT検査で偶然発見されるケースも少なくありません。症状が出る場合は、以下のようなものが代表的です。
- 長引く咳(特に乾いた咳が数か月以上続くことがある)
- 痰(白色~黄色の痰が出ることがある)
- 血痰(気管支の炎症に伴い、痰に血が混じることがある)
- 微熱・倦怠感(進行した場合に見られることがある)
- 体重減少(長期にわたる慢性感染の場合)
診断には、胸部CT検査による画像所見と、喀痰検査による菌の検出が必要です。日本結核・非結核性抗酸菌症学会の診断基準では、異なる日に採取した喀痰から2回以上NTMが検出されること、または気管支洗浄液から1回検出されることが求められています。画像所見としては、小結節や気管支拡張像などが特徴的です。
治療――経過観察と薬物療法
NTM肺感染症の治療方針は、病状の進行度や症状の程度によって大きく異なります。
経過観察
症状が軽度で画像上の変化も限定的な場合は、すぐに薬物治療を開始せず、定期的な画像検査と喀痰検査で経過を観察する方針がとられることがあります。NTM症は進行が非常にゆっくりであることが多く、数年にわたって大きな変化が見られないケースもあるためです。ただし、経過観察中であっても定期的な受診は欠かさないようにしましょう。
薬物療法
MAC症の標準的な治療は、クラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)、リファンピシン、エタンブトールの3剤を組み合わせた多剤併用療法です。治療期間は長期にわたり、喀痰培養が陰性化した後も12~18か月以上の継続が推奨されています。副作用の管理も重要であり、定期的な血液検査や視力検査(エタンブトールによる視神経障害の早期発見)が必要です。
治療が長期に及ぶため、自己判断で服薬を中断すると薬剤耐性菌が出現するリスクがあります。副作用で困った場合は、中断する前に必ず主治医に相談してください。
日常生活での注意点
日常生活では、以下の点に気を配ることが推奨されます。
- 浴室の換気と清掃:NTMは浴室のシャワーヘッドや浴槽に繁殖しやすいため、定期的な清掃と十分な換気が重要です。
- 土いじりの際のマスク着用:ガーデニングや畑仕事で土壌中の菌を吸い込む可能性があるため、マスクの着用が勧められます。
- 十分な栄養と休息:免疫力を維持するため、バランスの良い食事と十分な睡眠を心がけましょう。
- 禁煙:喫煙は気道の防御機能を低下させるため、禁煙は必須です。
- 加湿器の管理:加湿器はNTMの温床になり得るため、使用する場合は毎日水を交換し、定期的に洗浄しましょう。
まとめ
非結核性抗酸菌症は人にうつらない慢性の呼吸器感染症であり、多くの場合ゆっくりと進行します。すぐに治療が必要な場合と経過観察で済む場合があり、個々の状態に応じた判断が大切です。長期にわたる病気との付き合いになることも多いですが、定期的な受診と適切な治療を続けることで、良好な状態を維持している方はたくさんいます。不安なことがあれば、呼吸器内科の専門医に相談しましょう。