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マイコプラズマ肺炎の特徴とは?なぜ咳が長引くのか

「歩く肺炎」と呼ばれる理由

マイコプラズマ肺炎は英語で「walking pneumonia(歩く肺炎)」と呼ばれることがあります。これは、通常の細菌性肺炎と異なり、高熱や強い倦怠感で寝込むほどの重症感が少なく、多くの患者さんが日常生活を送りながら発症・進行していくことに由来しています。仕事や学校を休まずに過ごしているうちに、周囲への感染が広がってしまうケースも少なくありません。特に学校や職場など集団生活の場では、気づかないまま感染源となりやすい点が大きな特徴です。

マイコプラズマとはどのような微生物か

マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は、細菌とウイルスの中間的な大きさをもつ微生物です。一般的な細菌と異なり、細胞壁を持たないという特殊な構造をしています。この細胞壁がないという特徴は、治療薬の選択に大きく関わります。細胞壁の合成を阻害する抗菌薬(ペニシリン系やセフェム系)は効果がなく、細胞内に作用するマクロライド系抗菌薬などが治療の中心になります。

感染経路は主に飛沫感染と接触感染で、潜伏期間は2〜3週間と比較的長いのが特徴です。潜伏期間が長いため、いつどこで感染したかを特定しにくく、家庭内や学校、職場で気づかないうちに広がることがあります。感染力そのものはインフルエンザほど強くはありませんが、長い潜伏期間の間にも感染性があるため注意が必要です。

特徴的な症状:しつこい乾いた咳

マイコプラズマ肺炎の最も特徴的な症状は、長引く頑固な乾いた咳です。最初は軽い咳から始まりますが、日を追うごとに咳の回数と強さが増していきます。特に夜間から早朝にかけて咳が激しくなり、睡眠が妨げられることも珍しくありません。咳は3〜4週間、長い場合は1か月以上続くこともあります。

初期には痰を伴わない乾性咳嗽が中心ですが、経過とともにやや痰が絡むようになることもあります。発熱は38度前後の中等度が多く、細菌性肺炎のような39度以上の高熱が続くことは比較的少ないです。そのほか、頭痛、咽頭痛、倦怠感などの全身症状を伴うこともありますが、比較的軽度であることが多いです。

風邪や一般的な肺炎との違い

風邪(急性上気道炎)は通常、鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの上気道症状が主体で、咳があっても1〜2週間以内に改善します。一方、マイコプラズマ肺炎では、鼻症状は比較的軽く、主な症状は長期間にわたる咳です。胸部X線では淡いすりガラス状の影が見られることがありますが、聴診上は異常音が目立たないこともあり、「聴診所見と画像所見の解離」がマイコプラズマ肺炎の診断上の手がかりとなります。

一般的な細菌性肺炎(肺炎球菌性肺炎など)では、膿性の痰、高熱、強い全身倦怠感が出現し、聴診でも水泡音が聴取されます。マイコプラズマ肺炎はこれらと比べて全身状態が比較的保たれる点が異なります。ただし、まれに重症化して呼吸困難を来す例や、肺外合併症(皮膚症状、神経症状、溶血性貧血など)を起こす例もあるため、油断は禁物です。

診断と治療

マイコプラズマ肺炎の診断には、咽頭拭い液を用いた迅速抗原検査やLAMP法などの遺伝子検査、血液検査による抗体価の測定などが用いられます。迅速検査は30分程度で結果が得られるため、外来診療でも活用されています。胸部X線やCT検査で肺の炎症像を確認することも診断の補助となります。

治療の第一選択はマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)です。通常は内服治療で改善しますが、近年マクロライド耐性菌が増加傾向にあり、効果が不十分な場合にはテトラサイクリン系やニューキノロン系抗菌薬への変更が検討されます。咳に対しては鎮咳薬や気管支拡張薬を併用することもあります。適切な治療を行えば、多くの場合1〜2週間で改善に向かいます。

家族内感染を防ぐために

マイコプラズマは飛沫感染で広がるため、家族内感染が起こりやすい特徴があります。特に学童期の子どもが発症した場合、兄弟や親にうつるケースが多く報告されています。予防のためには、こまめな手洗い・うがい、咳エチケット(マスクの着用や咳をする際に口を覆う)が重要です。また、タオルや食器の共用を避けることも効果的です。家族に咳症状が長引いている方がいる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。

まとめ

マイコプラズマ肺炎は、比較的軽症でありながら咳が長期間にわたって続く、厄介な感染症です。「ただの風邪」と思って放置していると、周囲への感染拡大や、まれに重症化のリスクもあります。2〜3週間以上咳が続く場合は、マイコプラズマ肺炎の可能性を考えて医療機関を受診することをおすすめします。適切な診断と治療により、多くの場合は速やかに改善が期待できます。

参考文献:日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」