誤嚥性肺炎を予防するために、家庭でできること。
誤嚥性肺炎は予防できる病気
肺炎は日本人の死因の上位を占める疾患であり、高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎は「食べ物や唾液が気管に入ることで起こる肺炎」であり、加齢に伴う嚥下機能の低下が大きな原因となります。しかし、この病気は日常生活のなかでの工夫や習慣によって、発症リスクを大幅に下げることができます。
家族や介護に携わる方がその仕組みと予防法を理解しておくことは、大切な人の命を守ることにつながります。ここでは、家庭で実践できる具体的な予防策について詳しく解説します。
誤嚥性肺炎の仕組み
通常、食べ物や飲み物を飲み込むとき、喉頭蓋(こうとうがい)というフタのような構造が気管の入り口を閉じ、食べ物が食道へと導かれます。しかし、加齢や病気によってこの仕組みがうまく機能しなくなると、食べ物や唾液、さらには口の中の細菌が気管から肺へと入り込んでしまいます。これが誤嚥(ごえん)です。
誤嚥が起こっても、健康な方であれば咳反射によって異物を排出できることが多いのですが、高齢者や体力が低下している方では咳反射も弱くなっており、気づかないうちに少量ずつ誤嚥を繰り返す「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」が起こりやすくなります。特に就寝中に唾液を少しずつ誤嚥するケースが多く、口腔内の細菌が肺に到達して炎症を起こすことで誤嚥性肺炎を発症します。
リスクが高い人
誤嚥性肺炎のリスクが特に高いのは、以下のような方々です。
- 75歳以上の高齢者:加齢による嚥下機能の低下が顕著になります。
- 脳卒中の既往がある方:脳卒中後は嚥下に関わる神経が障害されやすく、誤嚥のリスクが大幅に高まります。
- 認知症の方:食事に集中できなくなったり、食べ物を十分に噛まずに飲み込んでしまうことが増えます。
- パーキンソン病の方:嚥下に関わる筋肉の動きが障害されます。
- 寝たきりの方:体位の関係で胃の内容物が逆流しやすくなります。
- 口腔内の衛生状態が悪い方:口腔内の細菌量が多いほど、誤嚥した場合に肺炎を起こしやすくなります。
口腔ケアの重要性
誤嚥性肺炎の予防において、口腔ケアは最も重要な対策の一つです。Yoneyamaらが2002年にJournal of the American Geriatrics Societyに発表した研究では、介護施設の高齢者に対して専門的な口腔ケアを実施したところ、肺炎の発症率が約40%低下したことが報告されています。
口腔ケアのポイントは以下の通りです。
- 毎食後の歯磨きを徹底する:自分で磨ける方も、磨き残しがないか確認する。
- 義歯(入れ歯)の清掃:毎食後に外して洗い、就寝時は義歯洗浄剤に浸ける。
- 舌の清掃:舌の表面には細菌が多く付着しており、専用の舌ブラシで優しく清掃する。
- 口腔内の保湿:乾燥した口腔内は細菌が繁殖しやすいため、こまめな水分補給や口腔保湿ジェルを活用する。
- 定期的な歯科受診:虫歯や歯周病の治療・予防のため、3~6か月に1回は歯科を受診する。
食事の工夫(姿勢・食形態)
食事中の姿勢は誤嚥を防ぐうえで非常に重要です。理想的な食事姿勢は、椅子に深く腰かけ、背筋を伸ばし、やや前傾姿勢(あごを軽く引く姿勢)をとることです。あごを引くことで気管の入り口が狭くなり、食べ物が気管に入りにくくなります。ベッド上で食事をとる場合は、上半身を30度以上起こし、頭部をやや前屈させた姿勢が推奨されます。
食形態の工夫も大切です。嚥下機能が低下している方には、以下のような配慮が有効です。
- とろみをつける:水やお茶などのさらさらした液体は誤嚥しやすいため、とろみ調整食品を使って適度なとろみをつける。
- 一口量を少なくする:小さめのスプーンを使い、一口の量を減らす。
- ゆっくり食べる:十分に噛んでから飲み込むよう声かけをする。
- 食べやすい形態に調整する:きざみ食、ソフト食、ペースト食など、嚥下機能に合った食形態を選ぶ。
- 食事中の会話を控える:食べながら話すと誤嚥のリスクが高まる。
嚥下体操
食事の前に嚥下体操を行うことで、嚥下に関わる筋肉をほぐし、スムーズな飲み込みを助けることができます。以下のような体操を食事前に5分程度行うことが推奨されます。
- 深呼吸:鼻から大きく息を吸い、口からゆっくり吐く。3回繰り返す。
- 首の運動:首をゆっくり前後左右に倒す。次に、ゆっくり回す。各方向3回ずつ。
- 肩の運動:両肩を上げてストンと落とす。5回繰り返す。
- 頬の運動:頬を膨らませたりすぼめたりを交互に行う。5回繰り返す。
- 舌の運動:舌を前に出したり引っ込めたり、左右に動かしたりする。各方向5回ずつ。
- 発声練習:「パ」「タ」「カ」「ラ」をそれぞれ大きな声で5回ずつ発声する。これは「パタカラ体操」とも呼ばれ、嚥下に関わるさまざまな筋肉を効率よく鍛えることができる。
これらの体操は簡単に行えるものばかりですので、食事の習慣として取り入れることをおすすめします。
まとめ
誤嚥性肺炎は、日常のちょっとした工夫と習慣で予防できる病気です。口腔ケアの徹底、食事姿勢の見直し、食形態の調整、そして嚥下体操の実践は、いずれも家庭で無理なく取り組めるものです。高齢のご家族がいらっしゃる方は、ぜひこれらの予防策を日々の生活に取り入れてみてください。気になる症状がある場合は、早めに医療機関に相談することも大切です。
参考文献:Yoneyama T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-433.