DISEASE
病名から探す小児喘息
夜中にお子さんが咳き込んで、苦しそうに肩を上下させている姿を見るのは、ご家族にとって本当に辛いものです。
「子供の喘息は成長すれば自然に治る」という話もありますが、実は「今、適切にコントロールすること」こそが、将来の健康を守る鍵となります。ここでは、小児喘息の仕組みや、ご家庭で知っておいていただきたい大切なポイントを紹介します。
※当院の診療は、15歳以上の方が対象となります。
小児喘息の特徴(大人との違い)
お子さんの喘息の多くは、ダニやハウスダストといった特定の物質(アレルゲン)に対して体が過剰に反応してしまう「アトピー型」です。
お子さんの成長に伴って気管支が太く丈夫になるため、中学生くらいまでに症状が落ち着く「寛解(かんかい)」を迎えることも珍しくありません。しかし、お子さんの気道は大人に比べて非常に細く、わずかな腫れや痰(たん)でもすぐに通り道が狭くなってしまうため、大人以上に丁寧な管理が必要です。
| 特徴 | 小児喘息 | 成人喘息 |
|---|---|---|
| 主な原因 | ダニ・ハウスダストなど | タバコ、ストレス、風邪など |
| アレルギー体質 | ほとんどの子が持っている | 持っていない人も多い |
| 将来の見通し | 成長とともに落ち着くことが多い | 慢性化しやすく自然治癒は稀 |
| 気道の太さ | とても細く、詰まりやすい | 比較的太く、構造がしっかりしている |
日本人小児の喘息のフェノタイプ(経過のパターン)
喘息と一口に言っても、その経過は一人ひとり異なります。以下の図は、子供の頃に発症した喘息が、大人になるまでどのように推移するかを示したモデル図です。

実際に日本人のお子さんを対象とした大規模な調査では、以下のような5つのパターン(フェノタイプ)に分かれることが報告されています。
- 健常群:43.7%
- 乳児期一過性喘鳴群(小さい頃だけ症状が出る):32.3%
- 持続型喘鳴群(大人まで症状が続く):9.2%
- 早期発症寛解型(早くに発症して途中で治る):8.6%
- 就学期喘鳴群(学校に上がる頃から出始める):6.2% (出典:Limin Yang, et al. Pediatr Allergy Immunol. 2018)
なぜ経過が人によって違うのか?
持続する人もいれば一時的で寛解する人、将来再燃する人も様々です。これには、遺伝的な要因やアレルギー体質、周囲の環境(タバコの煙など)が複雑に関係しています。

症状がなくなったら「治った」のか?
- 子どもの頃に喘息があっても、多くの方は大人になるまでに症状がなくなります。
イギリスやオランダの調査では、52〜75%が成人になるころに症状が出なくなっていました。 - ただし、症状がなくなっても“完全に治った”とは限りません。
症状がなくなった方の中で、本当に気道の状態まで改善していた(完全寛解)人は約4割(43%)でした。

- 症状が消えても、気道の敏感さや肺機能の低下が残っている場合があります。
上の図の通り、無症状(約半数)の方の中でも、約3割に気道過敏性(BHR)が残り、約5割に呼吸機能の低下が見られました。つまり、表面上は元気でも、水面下で「炎症」が残っている可能性があるということです。
炎症を放置しないために
症状がないからといって治療を自己中断し、水面下の「炎症」を放置してしまうと、気道が厚く硬くなって元に戻らなくなる「リモデリング」という現象が起きてしまいます。
喘息は症状の有無だけでは正しく評価できません。「本当に治っているのか」「水面下の炎症はないか」を、当院の検査でしっかりと評価し、お子さんの将来の健康を守りましょう。
小児喘息の症状
お子さんは「息が苦しい」といった変化を言葉でうまく伝えられません。保護者の方が、日常の小さなサインに気づいてあげることが大切です。
こんな症状はありませんか?
- 夜間や明け方の咳: お布団で体が温まった時や、明け方に咳き込んで目が覚める。
- 運動中・運動後の変化: 走り回った後や、大笑いした後にコンコンと咳が出る。
- 季節の変わり目: 季節の変わり目や風邪を引いた後に、咳だけがいつまでも長引く。
- 呼吸の様子: 息を吸う時に、喉のあたりや胸のくぼみがペコペコと凹んでいる。
- 音の確認: 呼吸をするたびに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえる。
これらのサインは、気道が敏感になり通り道が狭くなっている証拠です。特に夜間の咳は、お子さんの大切な睡眠や成長にも影響を及ぼします。
適切な治療が必要な理由
喘息の症状が出ていない時でも、気道の粘膜には「炎症」という火種が隠れています。これは火事に例えると「大きな炎は見えないけれど、地面の下で種火がずっとくすぶっている状態」です。
放置することのリスク
「咳が出ていないから」と自己判断で治療を中断し、この種火(炎症)を放置すると、気道の壁は次第に厚く、硬く変化してしまいます。これを「リモデリング」と呼びます。
一度硬くなってしまった気道は、成長しても元のしなやかな状態に戻ることが難しくなります。その結果、将来的に肺が十分に発達しなかったり、大人になってから重い喘息に移行したりするリスクが高まります。今のケアは、将来お薬を必要としない「健やかな肺」を育てるための大切なプロセスです。
診断と検査について
当院では、お子さんの体に負担がかからない、痛みのない検査を中心に行います。
1. 丁寧な問診
生活環境やアレルギー体質の有無を詳しく伺います。保護者の方が気づいた「咳のタイミング」が、診断の最も重要な手がかりになります。
2. 呼気NO検査(一酸化窒素検査)
機械に10秒ほど息を吐き出すだけの検査です。
気道の炎症状態を数値で確認できるため、治療の効果が「目に見える」ようになり、お薬を続ける上での大きな目安になります(小学生くらいから受診可能です)。
3. 呼吸機能検査(スパイロメトリー)
肺活量や息を吐き出す力を測定します。「空気の通り道が狭くなっていないか」をグラフ化することで、喘息の重症度や呼吸の状態を客観的に評価します。
4. 血液検査(アレルギー検査)
何に対してアレルギー反応が起きているか(ダニ、カビ、花粉などの特異的IgE抗体)を調べ、ご家庭での具体的な対策に役立てます。 あわせて、体内のアレルギー状態を示す数値(好酸球数や非特異的IgE値)を確認することで、お子さんのアレルギー体質の強さを総合的に判断します。
ダニ、カビ、花粉など、何に対してアレルギー反応が起きているかを調べ、ご家庭での具体的な対策に役立てます。
治療について
治療のゴールは、症状を気にせず元気にお友達と走り回ったり、夜もぐっすり眠れたりといった、穏やかな毎日を過ごせるようになることです。
吸入ステロイド薬の安全性
治療の主役は、気道の炎症を直接抑える「吸入ステロイド薬」です。
吸入薬は飲み薬と異なり、必要な場所にだけ直接届くため、ごくわずかな量でしっかりと効果を発揮します。全身への影響はほとんどなく、医師の指示通りであれば長期間でも安全に使用できます。むしろ、治療をせずに発作を繰り返すことの方が、お子さんの成長に悪影響を及ぼすことがわかっています。
継続することの本当の意味
症状が消えても、水面下の炎症を抑え続けることが再発防止には不可欠です。1日1回で済むお薬や使いやすいデバイスもありますので、お子さんの生活スタイルに合わせて一緒に進めていきましょう。
ご家庭でできる環境づくり
アレルギーの原因となるものを身の回りから減らしていくことも、お薬と同じくらい大切です。
- 丁寧なお掃除: ダニが溜まりやすい寝室やリビングは、1㎡あたり20秒ほどかけてゆっくり掃除機をかけましょう。
- 寝具の管理: ダニは高温に弱いため、布団乾燥機(50℃以上)を活用した後に掃除機で吸い取るのが効果的です。
- 禁煙のお願い: 受動喫煙はお子さんの気道を強く刺激し、お薬の効果を弱めてしまいます。
- 湿度と換気: ダニやカビを防ぐため、お部屋の湿度は50%前後を目安に保ちましょう。
- 感染予防: 風邪やインフルエンザは喘息を悪化させるきっかけになります。手洗い・うがいの習慣を大切にしましょう。
お子さんの健やかな未来のために
お子さんの咳が続くと不安になりますが、喘息は正しくコントロールすれば、スポーツも勉強も諦める必要はありません。
「今」の適切なケアは、お子さんの将来への贈り物です。明るい未来のために、私たちはご家族と一緒に一歩ずつ歩んでいきたいと考えています。どんな小さな不安でも、お気軽にご相談ください。