専門医が解説する、SASの簡易検査と精密検査(PSG)でわかることの違い
検査は決して難しくない
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査と聞くと、大掛かりで大変なものを想像される方が少なくありません。しかし実際には、簡易検査であれば自宅で手軽に行うことができ、痛みや苦痛を伴うものではありません。SASは放置すると高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などの重大な合併症を引き起こすことが知られています。そのため、いびきや日中の眠気といった症状がある方は、まず検査を受けることが治療の第一歩となります。検査には大きく分けて「簡易検査」と「精密検査(PSG)」の二種類があり、それぞれの特徴を正しく理解しておくことが重要です。
簡易検査の概要と流れ
簡易検査は、医療機関から貸し出される小型の検査装置を自宅に持ち帰り、就寝時に装着して行う検査です。指先にパルスオキシメーターを取り付けて血中酸素飽和度(SpO2)を測定し、鼻の下にフローセンサーを装着して気流の有無を記録します。装着にかかる時間は数分程度であり、普段どおりの環境で眠ることができるため、検査に対する心理的なハードルが低い点が大きなメリットです。検査翌日に装置を返却し、記録されたデータを専門医が解析して結果を判定します。簡易検査では主に無呼吸・低呼吸の回数(AHI)と酸素飽和度の低下パターンを確認することができます。ただし、睡眠の深さや脳波の変化までは測定できないため、あくまでスクリーニング検査としての位置づけとなります。
精密検査(PSG)の概要と流れ
精密検査であるポリソムノグラフィー(PSG)は、睡眠医療の分野においてゴールドスタンダードとされる検査方法です。通常、医療機関に一泊入院して行われます。脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸気流、胸腹部の呼吸運動、血中酸素飽和度、体位、いびき音など、多数のセンサーを装着して一晩の睡眠を詳細に記録します。これにより、睡眠の段階(レム睡眠・ノンレム睡眠の各段階)、覚醒反応の頻度、無呼吸・低呼吸の種類(閉塞性・中枢性・混合性)の鑑別、さらには周期性四肢運動障害やナルコレプシーなど他の睡眠障害の有無まで包括的に評価することが可能です。検査中は睡眠検査技師が常時モニタリングを行い、データの品質を管理します。
両者の違い
簡易検査とPSGの最も大きな違いは、得られる情報量にあります。簡易検査で測定できるのは呼吸に関連する指標が中心であり、睡眠の質や構造を評価することはできません。一方、PSGでは脳波を記録するため、実際に眠っている時間と覚醒している時間を正確に区別でき、真のAHI(睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)を算出することが可能です。簡易検査では「検査装置を装着していた時間」を分母にして計算するため、なかなか寝つけなかった場合にはAHIが実際より低く見積もられてしまうことがあります。また、無呼吸のタイプが閉塞性か中枢性かの判別はPSGでなければ正確に行えません。
どちらの検査が必要か
一般的には、SASの疑いがある方にはまず簡易検査を行い、その結果を踏まえて精密検査の必要性を判断します。簡易検査でAHIが40以上と明らかに重症である場合には、PSGを経ずにCPAP治療を開始できるケースもあります。一方、簡易検査の結果がグレーゾーン(軽症から中等症の範囲)であった場合や、日中の眠気が強いにもかかわらず簡易検査で異常が見られなかった場合には、PSGによる精密評価が推奨されます。また、中枢性無呼吸が疑われる場合や、他の睡眠障害との鑑別が必要な場合にもPSGが不可欠です。主治医と相談のうえ、適切な検査を選択することが大切です。
AHIの意味と重症度分類
AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)は、SASの重症度を判定するための最も基本的な指標です。睡眠1時間あたりに発生する無呼吸と低呼吸の合計回数を示します。
無呼吸(Apnea)とは、口と鼻の気流がほぼ完全に停止(ピーク振幅が基準値の10%以下)し、それが10秒以上続く状態を指します。低呼吸(Hypopnea)とは、気流が基準値の30%以上低下し、10秒以上続く状態であって、かつ酸素飽和度(SpO₂)が3%以上低下するか、脳波上で覚醒反応(arousal)を伴うものを指します。
AHIが5未満であれば正常範囲とされ、5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症と分類されます。重症のSASでは一晩に数百回もの無呼吸が繰り返されることもあり、深い睡眠がほとんど得られなくなります。
ただしAHIの数値だけで治療方針が決まるわけではなく、日中の眠気の程度や合併症の有無なども総合的に考慮して判断されます。
(参考文献:American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders, 3rd ed.)
まとめ
SASの検査は簡易検査・PSGともに安全で身体的な負担が少ない検査です。簡易検査は手軽にスクリーニングができる利点があり、PSGはより詳細で正確な診断が可能です。いびきや眠気が気になる方は、まずは簡易検査から始めてみることをおすすめします。検査結果を正しく理解し、必要に応じてPSGへ進むことで、適切な治療につなげることができます。